ドイツを離れた私たち一行が、次に向かったのはイタリアです。ちょっとキャリアの話から横道にそれます。タバコに関する話を少々。ドイツでは、意外にも喫煙OKのホテルやレストランが多数ありました。ただし、歩きタバコは厳禁。ついぞドイツでは歩きながらタバコを吸っている人を見かけませんでした。
イタリアに移動する直前、ある人から「イタリアの禁煙法は厳しい。妊婦や赤ちゃんがいる場所での喫煙が見つかったら、罰金は約50万円だぞ!」と脅されました。が、現地の人たちの多くが、平気で歩きタバコをしています。「なぜですか?」と、あるイタリア人に質問したところ「私たちは法律をつくることが大好きだ。だが、現場は柔軟に判断する方がいい」との返答が。なんとも正直というか、人間的な考え方。歩きタバコは、道を歩く子どもの安全性などを考えればもちろん容認できませんが、それぞれの禁煙に関する取り組みと人々の振る舞いに、両国の国民性の違いを感じました。
少し前置きが長くなりましたが、本題に戻ります。イタリアは、カンパリズモ(郷土主義)の強い国。そして、ファミリーの絆が第一。フィアット社など世界的大企業は別にして、ほとんどの企業は従業員数300人までの規模に留まるそうです。つまり、家族経営以上の規模を求めないのです。ある世界的に有名なブランドを展開している企業の経営陣は、毎シーズンのデザインと出店計画の決定などの中核的業務のみを行い、ほかの仕事はすべてスタッフに任せます。しかし経営陣である親族以外のスタッフは、いくら頑張っても経営の中枢には参加できません。キャリアアップが望めませんので、優秀なスタッフほど辞めていく。彼らはその後のキャリアをどう考えるのか? 独立していくのです。
イタリアでは、業界団体や商工会の組織がしっかりしており、起業希望者を支援する仕組みがかなり整っています。しかし、イタリアの起業状況は多産多死。それでも起業を志す人たちは「だって刺激的な生き方じゃないか」と起業を目指します。その考え方を聞いた僕は、イタリア人の「ワーク」と「ライフ」のバランス感覚には参考にすべき点があるように感じました。
もうひとつ、ある会社の研修担当者に面白い話を聞きました。研修の開始前、参加者全員に「こより」を2本渡すそうです。なぜか? イタリア人は自己主張がとても強く、放っておけば「セコンドメ!」「セコンドメ!」(私の意見では!)と、どんどん意見が飛んでくるのだそうです。だから、その研修の時間内に意見を言えるのはひとり2度まで。「こより」がなくなったら発言権はない、というルールを設定したとのことです。
物事に対して正直で、とても積極的。私はイタリアという国と、イタリア人の生き方にも強い共感を覚えました。
さて、この旅の最後に訪れたベルギーでは、“水の都”ブルージュに宿泊し、おいしい料理をたくさん食べました。人口12万人の都市ですが、ミシュランの三ツ星レストランが3、4軒もあって、一ツ星にいたってはごろごろ。世界の主だった都市の人口対比でレストランが一番多いのがブルージュだそうです。街のスタンドで買ったサンドイッチですら、美味しすぎて感動しました。
ブルージュでは1日だけオフがあって、自転車を借りて出かけたのです。公園で地図を見ていたら、何人もの人が声をかけてくれて「どこに行きたいの?」とか「あそこもいいよ」って教えてくれる。ここで感じたのは、彼らの親切は感謝を求めてないということ。みんながちょっとずつ努力しながら人助けをすることで、幸せの輪が社会全体に広がっていく。とても合理的な考えですし、かっこいいですよね。このコラムを通してお話しているキャリア選択の方向性も、自分のためという内側ばかりではなく、地域や国など社会全体にも良い影響を与えるためにはどうすれば良いか考えていく必要があると思いました。やはり局所最適の積み重ねでは、全体最適は生まれませんからね。
たくさんのことを教わった今回のヨーロッパ調査旅行。いつか自分が煮詰まったときには、ふたたびこの地を訪れてみようと考えています。
来週はヨーロッパ見聞録の締めくくりとして、イタリアの「プロジェッティスタ」という働き方を題材に、新たなキャリアモデルを解説していきます。

